KURANISHI NT-636 を整備する
自作・実験工程のメモとして
27 Dec.2023
(最終更新:2024/03/18) 部品交換を中心とした整備を実施しました。
ひとつ前のテーマで、YAESUのANTENNA TUNER FC-707の整備を掲載しましたが、チューナーだけで無くリグ側やアンテナの切換ができる機器が欲しくなり、オークションで標記のNT-636を落札してしまいました。
出品の説明には「部品取り・現状ジャンク扱い」、「POWER計に誤差あり」と有りましたので、最悪アンテナ切替器にでも利用できれば良いかと考え落札することができました。
また、「POWER計の誤差」は前テーマの経験から「SWR/POWER検出のダイオード」の劣化ぐらいと想定して対象となるショットキーバリアダイオードを探しました。
そのダイオードがネットの情報から1SS108らしいことが分かりましたので、ネット検索で販売している店を探しまわり何とか入手することができました。
本器の整備は、「SWR/POWER検出のダイオード」の交換が中心になり作業自体は簡単なものでしたが、良否判定で少し戸惑うことが有りましたので作業工程をメモとして掲載しておきます。
SWR/POWER検出部の修理をした後のNT-636
SWR/POWER検出部は、左下の銀色カバーの下に有ります。
Edit by bluegriffon 3.1
クラニシの測定器のマニュアルは、ネット上で集めて公開されている方が居てとても役に立ったのですが、回路に関しては情報が見つけられずにいました。
そこで、それほど複雑でもない機器ですので回路を追いかけて書き出してみました。
実際には作業と前後してメモしてKiCadで書き出したもので、漏れ・誤りがあるかも知れません。
■.NT-636 NETWORK TUNER 回路図
クリックで拡大版(A4 pdf)になります。
文頭にも書きましたようにショットキーバリアダイオードの不良と当たりをつけていたので、ネット上で1SS108を探しました。
しかし、初めの良否判定で使ったLCR-T4の測定結果が想定外になり少し混乱しましたが、テスターを使った判定を追加して何とか処置できました。
■.処置前のNT-636と手持ちのRW-315A(ダミーで終端)を使って10Wを入力したときの比較
1.上のRW-315Aは10W近辺を指示しています。
2.一方、下のNT-636は約半分の5W近辺を指示しています。
■.SWR/POWER検出部の確認する場所
1.青〇部分のダイオードの片足を基板から外して特性を確認します。
2.左が一般に言うREF側で、右がFWD側になります。
■.ダイオードを測定したときの測定器の表示例
1.左の写真は、LCR-T4で端子1と3の間に接続した1SS108ダイオードを測定したときの表示例で、ダイオードの記号が現れなかった表示例です。
2.真ん中は、同じものをテスターを出してきてダイオードレンジで測定した例です。
3.右の写真は、試しにテスターで逆方向も見て、通常はOL等の表示になるはずがFWD側だけ変な値を示していた例です。
■.本器のFWD・REF側1SS108ダイオードと、購入品や手持ちの1SS99を比較した表
No |
ダイオードの種類 |
LCR-T4 |
テスターA |
テスターB |
備考 |
順方向Vf |
逆方向 |
順方向Vf |
逆方向 |
1 |
元NT-636のFWD側 |
2-3間 39p |
0.151V |
0.992V |
0.233V |
2.280V |
不良品 |
2 |
元NT-636のREF側 |
2-3間 38p |
0.168V |
.OL |
0.270V |
.OL |
良品か? |
3 |
1SS108 購入品-1 |
2-3間 34p |
0.149V |
.OL |
0.232V |
.OL |
REF側に採用 |
4 |
1SS108 購入品-2 |
2-3間 34p |
0.155V |
.OL |
0.244V |
.OL |
|
5 |
1SS108 購入品-3 |
449mV |
0.150V |
.OL |
0.223V |
.OL |
FWD側に採用 |
6 |
1SS108 購入品-4 |
511mV |
0.156V |
.OL |
0.240V |
.OL |
|
7 |
1SS99 購入品-1 |
270mV |
0.170V |
.OL |
0.210V |
.OL |
|
8 |
1SS99 購入品-2 |
283mV |
0.173V |
.OL |
0.215V |
.OL |
|
1.テスターの「.OL」表示は、オーバーロードの略です。
2.最初LCR-T4の表示がおかしかったので、購入した1SS108も同じようになり購入品も不良なのかと焦りました。
3.No3から6までの4本の1SS108でも、LCR-T4で正常?に表示される品もあるようでそういうものかも知れません。
4.テスターAだけでは不安なため、もう一台のデジタルテスターBでも調べましたがNo1のFWD側のダイオード不良のようです。
5.処置としては、テスターAでの値が近い品(No3・No5)を交換用に割り当てて、FWD・REF側の両方を交換しました。
POWER計の調整には手持ち品であるクラニシRW-315Aを使用しました。
このRW-315Aは2016年入手時に修理した後、測定したいときに引き出してきて使っている品で較正等はもちろん実施していません。
しかし、無線機の最近の無線機にある出力表示(%のバー表示)と比較しながら見ても、それなりの値を示していると感じています。
そのようなことから、RW-315Aを基準に合わせることにしました。
また、50Wを超える出力の送信機は無く、フルスケールで確認をしていません。
50Wを最大電力として合わせていますので、その分の誤差は大きいと思いますが、メーターフルスケール時の誤差もそれなりに有るため、あくまでも目安と考えます。
■.大電力目盛で50Wに調整
50W機より50W出力 |
RW-315A 300W(上目盛) |
NT-636 200W(上目盛) |
■.大電力目盛で20Wを確認
50W機より20W出力 |
RW-315A 300W(上目盛) |
NT-636 200W(上目盛) |
■.小電力目盛で20Wに調整
50W機より20W出力 |
RW-315A 30W(下目盛) |
NT-636 20W(下目盛) |
■.小電力目盛で10Wを確認
10W機より10W出力 |
RW-315A 30W(下目盛) |
NT-636 20W(下目盛) |
■.小電力目盛で5Wを確認
10W機より5W出力 |
RW-315A 30W(下目盛) |
NT-636 20W(下目盛) |
SWRについてはダミーロードにてSWR=1.0付近に落ち着くこと。
ならびに、チューナーON状態で調整をずらしSWR=3.0付近にして、nanoVNAでも近い値を示すことを確認しました。
上記修理をして主に受信用のRIG・ANT切替器として使用していましたが、古い品なのでロータリースイッチ(以下、R-SWと略す)の接点は大丈夫か?と気になり、テスターで簡易実測してみました。
その結果、ANT3が若干の接触不良が有るようで、何回か回していると回復するときもありますが、交換可能な部品を交換して整備することにしました。
このアンテナチューナーはアンテナ切換部分に特徴が有り、プリント基板にR-SWの端子を直接はんだ付けしている関係で、はんだごてと一体になったハンダ吸い取りポンプも購入して準備しました。
製造年のシールに「8」(2008年?)と有るので15年以上経過していると思われます。
そのため、スイッチ類の接触不良は他のNT-636やNT-616でも発生するかもしれませんが、この記事を参考にして実施される場合は自己責任でお願いします。
L切換 |
SW位置 |
A |
B |
C |
D |
E |
F |
G |
H |
I |
J |
K |
L |
Mhz表記 |
1.9 |
|
3.5 |
|
7 |
|
14 |
|
21 |
|
28 |
50 |
1回目 |
未接続 |
0 Ω |
260 Ω |
223 Ω |
1.1 Ω |
0.7 Ω |
145 Ω |
333 Ω |
28 Ω |
0.2 Ω |
0 Ω |
0.2 Ω |
2回目 |
未接続 |
0 Ω |
135 Ω |
212 Ω |
0 Ω |
3.9 Ω |
20 Ω |
7.3 Ω |
322 Ω |
9.2 Ω |
0 Ω |
0.1 Ω |
アンテナ切換 |
SW位置 |
1 |
2 |
3 |
4 |
1回目 |
0 Ω |
0 Ω |
40 Ω |
0 Ω |
2回目 |
0.1 Ω |
0 Ω |
61 Ω |
0 Ω |
これは作業に入る前の状態ですが、最初はアンテナ切換スイッチのみ測定して部品を手配しましたが、インダクター(L)の方が接触不良が多い状況でした。
どうせなら一緒に交換しようと、L側のR-SWも一緒に準備しておいたのが幸いでした。
また、L切換側の数値を見ますと、以前の所有者が主に使っていたBAND(FAZZY MATCH)の特徴が出ているのではないかと思えてきます。
■.R-SWの接触抵抗測定例
単純にテスターの抵抗レンジで測定しましたが、0.0Ω以外は抵抗値がふらつきます。
接触抵抗の現状を記録した上の表は、安定しかけた時の低めの値を記録しました。
ボリュームは、SWR測定の時にメーターの指示値が大きく変化したような気がしたので、同じタイプのものを準備しました。
同じような品がNetで検索しても出てこなかったので、3回路4接点の物を準備し不要なピンはニッパーで切ればよいと考えていましたが、コモンPINの位置が15°違うため取り付けられないことが分かりました。
一瞬ここで終わりかと思いましたが、元のR-SWの2回路目が未使用なのに気づきテスターで当たってみると接触不良は無いようなので、180°回転して取り付けることにしました。
■.未使用接点側に修正後のアンテナ切換のR-SW部分
接点の端子部が黒くなっていたので紙ヤスリで磨いています。
■.インダクター(L)側のR-SW(1回路12接点ストッパー無し)の状況(作業後)
R-SWが基板用しか入手できなかったのではんだ付けにてこずりましたが、どうにか復元できた?かと思います。
ボリュームは、特に問題なく取り付けすることができました。
■.交換済みのパーツ
メーターのアクリルパネルの留めネジにサビが出ていましたので、ついでに交換しています。
感想
実際にRIGに接続して確認してみました。
欲目で見た感想になりますが、以前の状態に比べバリコンによる同調操作で受信スペクトラムの山が増減するのがはっきりしてきたように感じます。
NET上に有るNT-636の取説には、はっきりとは明示されていませんが、姉妹機に当たるNT-616の取説の「使用上の注意事項」には、『送信状態のままでチューナー、アンテナ、バンド、入力などの各スイッチを切り替えないでください。』と有ります。
本機も小電力(10W)での調整であれ、同様の注意をした方が長く使える可能性が増すと考えられます。 |
(1)その他
大幅な改定・追記用